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ランジェリーパニック



        ランジェリーパニック

 誰しも、人には言えないような趣味や道楽があるものである。

 そうなんだ。
 この僕にも内緒にしている趣味がある。

 ランジェリー収集!

 もちろん女性の可愛らしくて魅力的な下着を集めているんだ。

 だからってアダルトショップで売っているような、染み付き臭い付きパンティーな
んてもんじゃないよ。
 僕はノーマルだからね。
 真新しいランジェリーが欲しいんだ。

 収集したランジェリーは、手にとって眺めるだけの観賞用と、実際に自分で履いて
楽しむ実用と二分している。



 観賞用はできるだけ可愛いとか魅力的とかで選ぶセクシーショーツ。
 自分で履くやつはもっこりがはみ出たりしないような、いわゆるスタンダードショ
ーツと呼ばれるもの。
 もちろんそのショーツを着て外出するのは日常茶飯事。
 外からでは判らないからね。

 ガーターベルトにガーターストッキングや、いわゆる悩殺下着とも言われているス
リーインワンなんかいいね。

 でも一番のお気に入りはロングスリップとネグリジェだよ。

 夜寝るときには、いつもネグリジェを着て寝るんだ。

 アダルト系のネグリジェだと、透け透けなのはいいけど、破れそうなくらいに生地
が薄くて着た感じがまるで良くないね。

 やっぱり二重三重に生地が重なっていて、ふんわり☆ふわふわ♪って感じで、頬ず
りすると気持ちいい感触が返ってくるようなのでなくちゃ。




 さて男がランジェリーを収集するにあたって、どこのショップで購入するかってこ
とが大問題だね。
 女性のランジェリー売り場を男がうろつくのはやはり勇気がいる。
 さらにランジェリーを手にとって……なんてことしていると、周囲の女性買い物客
の畏敬の視線を集めることになる。

 男が安心してランジェリーを手に入れるとなると、やっぱり通販ということになる
ね。

 通販カタログのニッセンとかセシールベルメゾンネットとかが大手で有名だけど……。
 これらは配達の際に、もろ通販名の印刷された目立つ箱や袋で送り届けられるから、
家族と同居の人はまず使えないだろうね。中身が推測されて勘ぐられてしまうだろ
う?
 僕のような一人暮らしにとっても、宅配便の人に変な目で見られたくないよ。毎回
同じ配達人が届けにくるってことが多いからね。

 でも、便利な通販メーカーがあるんだ。
 京都発インナーショップ白鳩本店ってところは、中身が推測できるような箱は使わな
いし、伝票上も「パソコン雑貨」とかで出荷してくれるんだよ。
 何でも買える通販だけど、実際に届いてみてがっかりということも多い。
 写真では判らないことがあるからね。
 つい先日もアダルト系のネットショップから、ネグリジェを買ったけど、これがぺ
らぺらに薄くってとても着られたもんじゃなかった。
 しかし、ランジェリーショップで実際に手にとって買う勇気もないから、致し方の
ないことでもある。
 写真を見て判断するしかない通販の欠点だよね。

 ……まあ、そんなこんなでランジェリーを山ほど集めているんだ。
 こんなに集めてどうするの?
 ショップでも開くのかい?
 と、それらを見られたらそう言われるくらいにね。
 趣味や道楽って、そんなものじゃないのかな。
 他人には理解できないことってあるじゃない?

 僕がランジェリー収集に夢中になっていることは理解してくれただろう。
 でも、最近別のことで気になってしようがないことがあるんだ。

 それはつい最近、隣に越してきた女性のことなんだ。
 とても美人でため息がでそうなくらい。
 男が放っておかないくらいの女性だよ。

 でも、僕の気になっていることは、彼女自身のことじゃない。
 といえば、もう気がついてくれると思うけど……。
 僕の気になっているのは、彼女の着ているランジェリーのことだよ。

 あんなきれいな女性が身につけるランジェリー。
 やっぱりセクシーで魅力的なものをつけていると思う。
 彼女に身に着けてもらってランジェリーも嬉しいだろうなあ。
 でも意外や意外、パンダのパックプリントのショーツを履いていたりしてね。
 最近ババシャツなるものが流行っているというから、もしかして……。

 そう考えると気になってしようがない。

 どんなランジェリーを持っているのか?
 どうしても知りたくなった僕は、彼女が出かけている隙に、ベランダから忍び込ん
で、どんなのランジェリーを持っているのか確かめることにした。

 こういった高層マンションの住人ってのは、意外とベランダ側の戸締りには無頓着
なことが多い。
 落ちれば即死。こんな所から進入する奴なんかいない。
 そう思っている人が多いから。

 というわけで、ベランダの手すりを乗り越えて隣に移り、彼女の部屋に侵入成功し
たってわけ。
 誤解してくれちゃ困るけど、盗みに入ったわけじゃないよ。
 あくまで彼女がどんなランジェリーを持っているかを確認するだけなんだかね。

 さてと……。
 ランジェリーをしまっている場所といえば、ベッドルームあたりのチェストだろう
ね。
 同じマンションの間取りがそう違うわけがない。
「ベッドルームはこっちだね」
 あった!
 ワンピースとかスーツとかはロッカー箪笥に入っているのだろうが、そちらの方の
中身は興味がない。
 ランジェリーといえば、隣に並んでいる天然桐素材のリビングチェストの方だろう。
 さっそく引き出しを開けてみる。

 ある! ある! ある!!

 色とりどり、多種多様なランジェリーが引き出しから溢れてきそうなくらいに。
 ブラジャーにショーツ、スリップ、ストッキング……。
 毎日これらの中から、
「今日はどれを着ていこうかしら♪ デートだからやっぱり勝負下着ね」
 とか言いながら選んでいるんだろうな。

 生地の素材も、綿やナイロン、トリコットとかあるしほんとに女性がうらやましい
な。
 男物の下着といえば、ほとんどが綿素材でありきたりのランニングシャツにブリー
フかトランクス程度。

 こんなにもいろんな素材や形状のものがあるなんて、ほんとに男女不公平だよね。

 あれこれ引き出して、色柄や形状の豊富さに感心したり、その感触・肌触りを楽し
んだりしていた。
 そして……。

 あった!
 ナイロン製のネグリジェだ!
 高級そうなレースをふんだんに使っているロングスリップもあるぞ。



 そうそう。
 女性用のランジェリーで、男でも不自由なく着られるものといえば、スリップとネ
グリジェだろう。

 ふと気がついたが、部屋の片隅に全身を映せる姿見がある。
 魔がさしたというべきだろうか。
 そのスリップとネグリジェを着て、その姿を見てみたくなった。
 僕の部屋には全身を映せる鏡はないんだ。
 彼女はまだ当分帰ってこないはずだ。

 よし!

 僕は服を脱いで裸になり、スリップを頭から被った。
 そして姿見に映してみる。
 くるりと踊るように回ってみる。
 身体の動きに合わせて、ふわりとスリップの裾が揺れる。



 いい感じだ。

 ストラップから胸もとにかけてと、裾部分にレースをたっぷり施したエレガントな
スリップドレス。落ち着いた中にスタイリッシュな魅力を秘め、2色染めのストレッ
チレースが優しくボディを包み込み、華やかさを添えています。スムース素材で肌触
りも抜群です。
 まあ、カタログ通販の商品説明的に言うとそうなる。
 上半身から膝あたりまであるスリップは一種独特なセクシーさを感じさせる。

 美しい彼女が、その柔肌を包むように、このスリップを着るのだ。
 ただのスリップではないのだ。
 今自分は、彼女になったつもりでこのスリップをを着ている。
 そう、そのシチュエーションが大切なのだ。
 それはもう一つのネグリジェにも言える。
「次はネグリジェを着てみよう」
 スリップを脱いでネグリジェに着替える。

 トリコットナイロン製特有のまとわりつくような肌触りの生地がやさしく身体を包
む。
 綿素材のものではこんな感じはまるでないだろう。

 いいなあ、これ……。
 欲しいなあ。

 自分のコレクションの中にもネグリジェはあるが、これほど着心地の良いものはな
い。
 だからといって盗むわけにはいかない。
 どこのショップで買ったのだろうか?
 できることならば、教えてもらいたいな。
 が、そんなこと聞けるわけがない。
 恋人か母親へのプレゼントに買うからというのはどうか?
 いや、変に勘ぐられるだけだ。

 その時だった。
 玄関の方で物音がする。
 鍵を開ける音じゃないか?

 帰ってきたのか?

 まさか、こんなに早く帰ってくるなんて。

 どうしよう。
 部屋に侵入した泥棒に思われる。
 いやそれ以前に、裸でネグリジェを着込んだ姿を見られたら……。

 玄関の扉を開ける音。

 どうしよう。
 ベランダはリビングの方だ。
 ベッドルームからは外に逃げられないぞ。
 窓はあるが、外は何もない。
 窓から逃げれば、数十メートル直下の地面に激突だ。

 どうしよう。
 どうしよう。

 足音が近づいてくる。
 どうしよう。
 心臓が早鐘のごとく激しく脈打つ。

 もうだめだ!

 そう思った瞬間だった。
 身体がふわりと浮いたような感じがして、目の前が真っ暗になってしまった。


 ベッドルームに彼女が入ってきたようだ。
「あら、変ね。あたし、ネグリジェ出したままだったかしら」
 そして僕は抱きかかえられたのだ。

 え?
 どういうこと……。
 確かに彼女の腕に抱えられているような感触が伝わってくる。
「そうね。せっかくだから、今夜はこれを着て寝ましょう」
 彼女の声が、身体を震わせるように聞こえてくる。

 それから数時間がたったのだろうか……。
 再び、僕は抱えられたかと思うと、全身に温かい感触を覚えた。
 そう……。
 女性の柔らかい肌のぬくもりだ。

 そして、僕は気がついた。
 どうやら、僕の身体はネグリジェそのものになってしまったようだ。
 そして今、彼女の身体をやさしく包んでいる。
 信じられないが現実のようだ。
 僕が着ていた服がどうなったかはわからない。

 僕の秘密の趣味は、ランジェリー収集だ。
 それがどうしたことか、ランジェリーそのものに変身してしまった。
 僕が愛してやまないランジェリー。
 そのランジェリーに変身して、しかも憧れともいうべき美しい女性の身体を包んで
いる。
 これはこれで本望ではないだろうか。

 いつかは捨てられる運命にあるだろうが、人だって寿命があると思えば同じこと。
 僕は満足だ。


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