特務刑事レディー
事件ファイル 1「銀行襲撃事件」
(3)特務指令
国家公安委員会特別外局特殊警察機構。
警察庁刑事局組織犯罪対策部、厚生労働省関東信越厚生局麻薬取締部、財務省税関
監視部、海上保安庁及び東京都治安対策課が合同して、麻薬・銃器密売及び売春・人身
売買などの国内外の組織犯罪を取り締まる国の特別機関である。
その出張機関として、警視庁内の組織犯罪対策課の一室に置いて、即応体制を敷い
ている。
ほぼ全員が国家公務員であり、警察官としての階級は警部補以上というエリート集
団である。
真樹と敬は、その特務刑事官である。
「君達を呼んだのは他でもない」
デスクの前に並んだ二人を前に、厳かに口を開く上司の課長。
課長とはいえ、階級は警視監であり、警察庁の局長クラス、警視庁では部長クラス
というところである。地方警察へ行けば本部長にもなれるという。
事あれば全警視庁警察官を即座に動員できるようにするため、即応体制を実施させ
るためにである。
「三時間ほどまでに、新都銀行麹町支店が強盗に襲われ、多くの客や行員を人質にと
って立て篭もった。
明らかにその表情を変える二人だった。
「それで犯人達は、何か要求をしているのですか?」
「単刀直入に言おう。以前におまえ達が逮捕した、磯辺健二の釈放だ」
「なんですって!」
真樹が金切り声に近い声を発した。
無理もないだろう。
覚醒剤密輸と闇取引に関する事件の大物だったのだ。
その人物を逮捕するまでにどれだけの苦労をさせられたか、どれほどの人物が悲し
い目に合わされたか……。
殺しても飽き足りないほどの極悪非道人。
「奴らは麻薬銃器の密輸の大ボスである磯辺健二を国外に逃亡させて、密輸ルートの
確保を企んでいるのだ。磯辺は、中東アラブの麻薬地帯における密売ルートの実質的
利権を握っており、アルカイダなどのテロ組織とも関係が深い」
「そして、北朝鮮を経由して大量の麻薬を日本に密輸していました」
真樹が跡尻を捕らえれば、敬が続く。
「銃器に関してもイスラエル軍との癒着が取り出されており、IMI製の銃火器を多
数密輸していました」
二人の発言に足して課長は答える。
「日本の平和のためにも奴を国外に逃がすことはできない。何としても人質を無事に
救出し、強盗一味を取り押さえなければならない。」
「それで銃火器のスペシャリストである敬が呼ばれたのですね。相手が武装している
以上は、銃撃戦は必至。人質救出と強盗逮捕を同時に成しえるのは敬しかいないと…
…」
真樹が、真意を察して答える。
「そういうことだ」
「敬、あなたの射撃の腕の見せどころよ。しっかりね」
と、敬の肩をぽんと叩いて激励の言葉を投げかける真樹。
「まあな。やるだけのことをやるだけだ」
責任重大の任務を言いつけられたというのに、平然とした表情で答える敬の自信の
ほどがうかがえる。
そんな頼もしい二人の会話を聞いていた課長だったが、もう一つの用件を切り出し
た。
実に言いにくそうにうつむき加減で……。
「うむ、実を言うと……。犯人達は、他にも逃走用の車。そして逃走の際に人質交換
として女性警察官一人を要求している」
その言葉の背後にある真理をすぐに直感する敬。
「人質……。まさか、真樹を?」
今度は敬が叫び、真樹に向き直った。
さすがに真樹の表情はこわばっていた。
「人質に取っているお客や行員を解放する交換として、女性警察官を連れて逃走する
ためですね」
「ああ、女性警察官を人質交換にすれば、逃走用の車の手配が手早く済むと考えてい
るようだ。これが民間人ならとても条件を飲むわけにはいかないからな」
「だからといって、いくらなんでも真樹を人質に差し出すことを了承するなんて、課
長がそんな方だとは思いませんでした」
警察機構において、一般の警察官としての男性と女性との間には、まぎれもない男
尊女卑の思想が今なお続いていた。
女性警察官は、そのほとんどが交通課に所属することになる。駐禁などの交通違反
切符を切ったり、交通整理などが主な仕事であり、課内でも依然としてお茶汲みとい
う仕事にあまんじているのが現状であった。特に刑事警察・公安警察といった捜査部
門にその傾向が強く、現在全国警察官中20%を占める女性警察官のうち刑事部門の職
務にあるものは極めて少なく男性刑事99%に対し1%程度である。近年では保育士な
どの国家資格を有している者には、保育施設開設運動も広がっていて、今後は市民の
防護のみならず、育成や育児相談窓口、警察署に保護された迷子などの面倒も見てく
れる頼れる女性警察官を増やしていく方針のようである。
とにかく、いわゆる交番のおまわりさん、とよばれる危険を伴う外勤はすべて男性
であり、そういった現場に女性警察官を派遣するなどという行為はご法度だった。
「君の真樹君の対する気持ちは良く判っているが、現状においては一般の女性警察官
を差し向けることはできないのだ」
「しかし、課長! だいたいからして真樹の本来の地位は、麻薬取締官なんですよ。
この事件は明らかに警視庁の警察としての仕事です。いくら真樹が、特殊機構の特別
司法警察官とはいえ、役所を超えています」
憤慨する敬だったが、それをなだめるように真樹が静かに答えた。
「敬、いいのよ。この任務はわたし以外には無理だわ。その任務、お引き受け致しま
す」
きっぱりと言い切る真樹だった。
「真樹!」
「そうか! やってくれるか!」
身を乗り出してくる課長。
「はい、やらせてください」
こうして真樹は、銀行強盗事件における来店客及び行員に対する人質交換としての
任務に従事することになったのである。
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- 2005-10-30
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