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プリンセス・ドール(5)


 突然、どこからか音が聞こえた。
「誰か来たのか?」
 助かったと思った。
 たぶん助手だろうが、動けないでいる私を見て、何とかしてくれるだろう。
 ドアを開ける音。
 あれ? おかしいな研究室のドアはこんな音はしない。
 それに最初に聞いた音は、何かを横にスライドするような……。
 そして再びドアを閉める音。
 締め切ったような部屋に反響する独特の音。
 間違いない! ここは私の家の隠し部屋だ。
 研究室からここへ運んだのだな。
 だが、何のためにか?
「やっと、警察は帰ったよ。ひつこい奴らでね。やたら疑いの目で見るんだよ」
 どういうことだ?
 警察がどうしたというのだ。
「いくら事故だと言っても信じてくれないんだ」
 事故?
 事故とはどんな事故だ。
 私が動けないのは、その事故が原因なのか?
「でも、何とか状況証拠から白と判断されて、無罪放免になったよ」
 わからない。
 いったいどんな事故が起きたというのだ、教えてくれ。
 しかし私の心の叫びは、助手には伝わらないようだった。
 声になって出ないようなのだ。
「これからどうしようか? 先生が死んじゃったから、この家も出なくちゃいけないだろうね」
 先生が死んだ?
 どういうことだ。助手がいう先生とは、この私のことに他ならないじゃないか。
 私は、こうして生きているぞ。
 耳だけしか聞こえない半身不随みたいな状態だが、確かに生きている。
「あ! そうだ、食事だね。警察の相手で朝と昼を抜いたから、随分お腹が空いただろう? 今あげるからね」
 食事か……。
 そう言えば、お腹がぺこぺこだった。
 何やら音がしている。料理でもしているのかと思ったがそうではなさそうだ。
 どんな食事だろうか。
 再び近づく足音。
「待たせたね」
 やがて異様な感覚が襲った。
 なんだこれは?
 胃の中に何かが入り込んでくる。
 その感覚の原因はすぐに判った。
 どうやら流動食を胃に流し込まれているようだった。

 き、気持ち悪い……。
 これは経験したものにしか判らないだろう。
「これくらいでいいだろう? あまりたくさんあげても太るだろうからね。女の子だもの、太っちゃ可哀想だ。せっかくの美貌がだいなしだ」
 なに?
 今、確かに女の子と言ったよな?
 女の子……。
 美貌がだいなしになるとは……。
 事態が少しずつ飲み込めてきた。
 信じがたいごとだが、それを認めなくてはならないようだ。

 これまでに得たというか、聞こえた情報を統合してみると……。
 まるで植物人間のような身体。
 流動食で生きながらえている。
 助手が先生と呼ぶ人物の死亡。
 そして美貌なる女の子。 

 導かれる結論は一つ。
 私の意識は、プリンセスドールのバイオ人工頭脳に閉じ込められ、私自身の身体は何らかの事故で死んでしまった。
 早い話、私はプリンセスドールになってしまったのだ。

 つづく


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