突然、どこからか音が聞こえた。
「誰か来たのか?」
助かったと思った。
たぶん助手だろうが、動けないでいる私を見て、何とかしてくれるだろう。
ドアを開ける音。
あれ? おかしいな研究室のドアはこんな音はしない。
それに最初に聞いた音は、何かを横にスライドするような……。
そして再びドアを閉める音。
締め切ったような部屋に反響する独特の音。
間違いない! ここは私の家の隠し部屋だ。
研究室からここへ運んだのだな。
だが、何のためにか?
「やっと、警察は帰ったよ。ひつこい奴らでね。やたら疑いの目で見るんだよ」
どういうことだ?
警察がどうしたというのだ。
「いくら事故だと言っても信じてくれないんだ」
事故?
事故とはどんな事故だ。
私が動けないのは、その事故が原因なのか?
「でも、何とか状況証拠から白と判断されて、無罪放免になったよ」
わからない。
いったいどんな事故が起きたというのだ、教えてくれ。
しかし私の心の叫びは、助手には伝わらないようだった。
声になって出ないようなのだ。
「これからどうしようか? 先生が死んじゃったから、この家も出なくちゃいけないだろうね」
先生が死んだ?
どういうことだ。助手がいう先生とは、この私のことに他ならないじゃないか。
私は、こうして生きているぞ。
耳だけしか聞こえない半身不随みたいな状態だが、確かに生きている。
「あ! そうだ、食事だね。警察の相手で朝と昼を抜いたから、随分お腹が空いただろう? 今あげるからね」
食事か……。
そう言えば、お腹がぺこぺこだった。
何やら音がしている。料理でもしているのかと思ったがそうではなさそうだ。
どんな食事だろうか。
再び近づく足音。
「待たせたね」
やがて異様な感覚が襲った。
なんだこれは?
胃の中に何かが入り込んでくる。
その感覚の原因はすぐに判った。
どうやら流動食を胃に流し込まれているようだった。
き、気持ち悪い……。
これは経験したものにしか判らないだろう。
「これくらいでいいだろう? あまりたくさんあげても太るだろうからね。女の子だもの、太っちゃ可哀想だ。せっかくの美貌がだいなしだ」
なに?
今、確かに女の子と言ったよな?
女の子……。
美貌がだいなしになるとは……。
事態が少しずつ飲み込めてきた。
信じがたいごとだが、それを認めなくてはならないようだ。
これまでに得たというか、聞こえた情報を統合してみると……。
まるで植物人間のような身体。
流動食で生きながらえている。
助手が先生と呼ぶ人物の死亡。
そして美貌なる女の子。
導かれる結論は一つ。
私の意識は、プリンセスドールのバイオ人工頭脳に閉じ込められ、私自身の身体は何らかの事故で死んでしまった。
早い話、私はプリンセスドールになってしまったのだ。
つづく
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