立ち上がった私に、秀雄は綺麗なドレスを買ってきて着せてくれるようになった。
「綺麗だよ、とっても似合っているよ」
鏡の前に立って、ドレスを着た自分の姿を見つめる。
うん、やはり馬子にも衣装だ。
いわゆる「ゴシック・ロリータ」略してゴスロリとも呼ばれる、フリルやレース・リボンなどの装飾をふんだんに取り入れた、見るからに少女趣味のドレスである。
この身体になるまえ、プリンセスドールに着せようと思っていたドレスである。
同じ研究をしている先生と弟子であるから、趣味が合うのかも知れない。
ちなみに、プリンセスドールは16歳という年齢に設定して創造した。
だからこういう少女趣味のものも良く似合う。
ともかく助手の買ってくるドレスには満足している。
しかし不安がないでもない。
このドレス、それ相応に高価だと思うのだが、研究所の安月給では次々と買える代物ではないだろう。代金をどうやって工面しているのであろうか?
まあ、そんなことに悩んでもしようがあるまい。どうせ話してくれないだろう。
ともかくも、そんなドレスを着て自宅の中を歩き回れるようになっていた。
まだ足元が不安定なので外は歩かせてくれない。
それらのドレスを着て、足の鍛錬を兼ねて庭を散歩する毎日が続く。
愛し合う若い夫婦。
他人が見ればそう映るかも知れない。
もちろん食事も私が作るようになっていた。
一人暮らしだったので、ある程度のことはできたが、さらに腕を磨いて秀雄に喜んでもらおうと努力した。秀雄も私の料理したものを喜んで食べてくれた。
掃除洗濯と、新妻のように甲斐甲斐しく働いた。
とにもかくにも幸せな日々が続いていた。
問題があった。
この屋敷のことである。
電気代とかの光熱費は、私の銀行口座にいくらかの残高があるはずだから一年くらいは持つだろう。しかし、固定資産税や住民税などの支払いが残っていた。これはかなり高額になるので、助手にはどうしようもないだろう。税金未払いでいずれ差し押さえがくることになる。
所有者は、以前の私である。
その私は死んでしまった。
家族はいなかった。
交通事故で全員死んでしまっていた。
当然、所有権は国の物となり、競売にかけられて国庫に入ることになるだろう。
秀雄も当然のこととして、そのことに頭を悩ましていたようだ。
「なあ、理奈」
「何でしょうか?」
「実は、この屋敷のことなんだが……」
「屋敷?」
秀雄が何を言わんとしているかがわかっていた。
「この屋敷は、亡くなった前の先生の家なんだ。それで遺産相続する家族もいないから国に取られちゃうんだ」
「国に? 取られちゃうの?」
知ってはいるが、あえて尋ねる。
「うん……だから、この屋敷を出なくちゃいけないんだ」
「そうなの……」
「僕は、この屋敷に居候していたんだ。それで引っ越すことになるんだが……」
言いにくそうであったが、意を決して口に出した。
「引越し先は、こんな大きな屋敷じゃない……。1DKの安アパートなんだ。家賃も払わなくちゃならないし、大学の助手の給料じゃ生活も楽じゃない。貧乏になるけど……それでも、僕について来てくれないかな……」
その言葉を口にするのはどんなに勇気がいっただろうか。
貧乏になるけどついて来てくれないか。
この私と別れたくない一途な思いからでた真剣な言葉であろう。
大学の助手の給料がどれほどのものかは、自分が良く知っている。
一緒になればどん底の生活となるのは間違いない。
しかし、私は覚悟を決めていた。
私の今があるのは、秀雄の献身的な愛があったからである。
人造生命体である私に、人間としての命を与えてくれた。
その恩を返さないでどうするというのだ。
それに何より、私自身も彼を心底愛してしまったからである。
「はい。どこまでもついていきます」
「本当なの?」
秀雄の表情が一面に明るくなった。
「はい」
「あ、ありがとう」
そして力強く抱きしめられた。
だが、不幸は突然訪れる。
つづく
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