【第一章 俊介】
「おや、目が覚めたんだね。加奈子」
「パパ、大変だよ! ママとボクの身体が入れ替わっているんだ」
入ってきた俊介に駆け寄り、直訴する加奈子。
「はあ……? 何のことを言っているんだ」
いぶかしげな表情をする俊介。
部屋に戻るなり突拍子もないことを言われては誰しもがそう感じるだろう。
「だから、ママの身体にボクの心が入ってしまったんだ。パパ! 本当だよ」
「言っていることが、支離滅裂だな。おまえは加奈子だろう?」
「違うよ。美奈だよ。ママの身体になっているけど、ボクは美奈だよ。パパの娘の美奈だよ」
なおも陳情を続ける加奈子。
「じゃあ、聞くけど。美奈の身体はどこにあるんだ?」
「判らないよ。だけど、ボクは正真正銘美奈なんだ」
なおも必至に現状を理解してもらおうと力説を繰り返す加奈子だった。
「そうは言ってもなあ……。おまえはどこから見ても、加奈子だし……。入れ替わったという証拠である美奈を連れてきてもらわないと、どうもこうも信じられないぞ」
「どうして、判ってくれないの!」
ほとんど金きり声になっていた。
「いい加減にしないか!」
さすがに堪忍袋の尾が切れたと言うべきか、大きな声で怒鳴り散らす俊介であった。
びっくりして縮こまる加奈子。
「では、言ってやろうじゃないか。ここに美奈がいない理由をな」
突然意外なことを言い出す俊介。
言葉を続ける。
「いいか、良く聞くんだ。おまえが自分が美奈だと言い張る私達の娘は、先日交通事故で亡くなっているんだ。だから、ここには美奈がいるはずがないのさ」
「え? 交通事故?」
美奈が交通事故で死んだ?
まさか……。
そんなことがありうるのか?
じゃあ、今の自分は?
ショックで言葉を失う加奈子であった。
「おまえは、自分の娘を突然失ったあまりの悲しさに自我を崩壊して、自分が美奈だと思い込むようになったんだ」
「思い込む?」
「そうだ。美奈が死んだことを受け入れられないおまえは、自分の意識の中に美奈がいるという幻想にとらわれてしまったんだ。医者が言うには、一種の解離性同一性障害という症状を引き起こしているらしい」
「解離性同一性障害?」
俊介は噛んで含ませるようにして説明をはじめた。
解離性同一性障害。
この病気は、幼児期などに何らかの虐待を繰り返し受けた場合に起きるとされるが、その多くが性的虐待であることも良く知られている。
繰り返しの虐待によって、自我を守るためにその心的外傷が自分以外の【別の誰か】が受けているものとして、その心をすり替えて退避しようとするのである。そしてその間の記憶や知覚などを【別の誰か】の中に閉じ込めてしまうのである。
やがて虐待から解放された時に自分自身に戻るがその間の記憶を忘れてしまっているのである。
いわゆる二重・多重人格と呼ばれるものでもある。
これに似たようなことが加奈子の心の中に形成されている。
溺愛していたともいうべき美奈の死の現実から逃避するために、自分の心の中に美奈という娘の人格を作り出してしまったというわけである。
「じゃあ、このボクはその解離性同一性障害によって作り出された、ママの心に中の幻想ということなの?」
「まあ、そういうことだ。早く現実に気がついて元の加奈子に戻るんだ」
といわれて、
「はい。わかりました」
と、答えられるわけがなかった。
自分のことは自分が良く知っている。
俊介が言う多重人格の自分であるはずがない。
自分は正真正銘の美奈であると断言できるのだ。
「うそだ! パパはボクを騙そうとしているんだ」
頭を左右に激しく振って否定の態度をとる加奈子。
「ボクは……。正真正銘、ボクは美奈なんだ!」
「いい加減にしないか!」
俊介も引き下がらない。
「もういい。お前が、加奈子ではなく美奈だと主張するなら、その身体に教え込ませるしかないようだ」
というとガウンをはだけた。
「見てごらん。おまえがそんな姿をしているから、興奮してこんなになっているぞ」
そこには、今にも張り裂けんばかりに堅くなり天井を向いている俊介のものがあった。
そうなのだ。
加奈子は、鏡の前に裸で立っていたのである。
それだけで俊介を欲情させるには十分であった。
「今夜はおまえに鎮めてもらわないと治まらないぞ」
そういうなり、いきなり加奈子の身体を抱えてベッドに運んだ。
つづく
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