ベッドの上にへたり込むようにしてすすり泣く加奈子だった。
その股間からは、俊介が自分の身体の中へ放った精液が滲み出していた。
それを処理することもなくただ呆然としていた。
やさしかった父親のこれほどの変貌ぶりに打ちのめされていた。
その傍らで肩を落としている俊介。
加奈子の裸体を目の当たりにして、欲情の極地に登りつめたあげくに、いやがる加奈子を無理やりに犯した。
事が終わって覚めてくると、その行為に対しての後悔に苛まされていた。
やがて搾り出すような声を出す俊介。
「すまない……。美奈」
意外な言葉を口に出す俊介。
「え?」
美奈と呼ばれて気を取り戻す加奈子。
「加奈子……。実はおまえの正体が美奈であることは知っていたんだ」
「どういうことなの? 訳を話してよ」
「いいだろう。最初から話してあげよう。わたしには、そうする義務がある」
(二)病院にて
俊介は、妻の加奈子が交通事故にあったという連絡を受けて、病院に直行した。
そして医者から宣告されることになる。
「奥様は事故の衝撃を受けて脳裂傷を起こしております。脳幹部が損傷を受けて、脳死状態です。お気の毒ですが、蘇生の可能性は0です」
まるで自分が脳裂傷を引き起こしたようなほどのショックを受けた。
妻が回復の見込みのない脳死。
「こんな馬鹿なことが……」
信じられなかった。
夢を見ているのではないかと自問自答してみる。
しかし、すべては現実だった。
自発呼吸のできない加奈子はICU(集中治療室)の中で、人工心肺装置に繋がれてただ生かされている状態であった。
ICUの中を見通せる通路のベンチに、肩を落として座り込んでいた。
そこへ二人の男が近寄ってきて、話し掛けてきた。
「神林加奈子さんの旦那さんですね。私は事故担当の刑事です」
と言いながら、警察手帳を開いて見せた。
事故調査の報告をはじめる刑事。
しかし、気落ちしている俊介にはほとんど聞こえていないようだった。
「それで奥様のハンドバックの中に、このようなものがあったんです」
と、提示したのは、臓器移植カードだった。
「臓器移植?」
カードを見せられて気を取り戻す俊介。
「ご主人はご存知でしたか?」
「はい。知っています」
思い出していた。
加奈子は臓器移植の手続きをしていた。
その本当の目的は、自分の生殖器を美奈に移植するというものだった。
もし自分に万が一のことがあったら、娘に本当の女性に生まれ変わらせたいと、自分の生殖器を移植する臓器移植の手続きをしていたのだった。
もちろん肝臓や腎臓なども項目に入っている。
「どうなさりますか?」
刑事に代わって白衣を着た医師と思われる男が尋ねてきた。
「ちょっと待ってください。妻の事故を聞かされたばかりだというのに、もう移植の話ですか? やめてくださいよ」
大声で怒鳴るように答える俊介だった。
そりゃそうだろう。
誰だって怒らずにはいられないだろう。
脳死と聞けば、すぐに臓器移植。
患者やその家族の精神状態のことも考えずに、医学のことばかりしか考えない医師。
「これは失礼しました。ともかく良く考えて答えを出してください」
そう言って二人は、俊介のもとを立ち去った。
そして入れ替わりにやってきた人物がいた。
静香だった。
彼女も警察からの連絡を受けて急いでやってきたらしい。
「臓器移植?」
「ああ、加奈子は普段から自分に万が一があったら、子宮などの自分のものを美奈にあげたいと考えていたんだ」
「そう……。でも、万事うまくいくとは限らないわよ」
「どういうこと?」
「免疫の型が合わないからよ」
「型が合わないって? 実の親子なんだから」
「考えが甘いわね。親子だからこそ、免疫の型が合わないのよ」
つづく
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