夜が明けた。
いつもと違う目覚めの感触。
そしてネグリジェを着ている自分を発見するのだった。
しばし事情を飲み込めなかった男だったが、
「そうか……。パジャマが見つからなかったから、妻のネグリジェを着てしまったんだ」
ベッドの側には大きな姿見が置かれていて、ネグリジェ姿の自分が映っている。
一瞬そこに妻の姿を見たような気がして驚いたが、紛れもなく自分自身と判ってほっとする。
ネグリジェの柔らかい肌触りが全身をくすぐる。
「へえ……。ネグリジェもなかなかいいもんだな」
癖になりそうだったので、頭を叩いて考え直そうとしたが、
「しかし、これを着る妻はもういないんだ。まさしくタンスの肥やしにするつもりか?」
男の考えがまとまったようだ。
どうせ誰にも見られないし、笑われることもない。
野暮な男物のパジャマを着るよりも、妖艶なネグリジェを着るほうが良いじゃないか。
その経験した感触は忘れられるものでもない。
「待てよ。ネグリジェを着るなら……」
タンスの中に入っているのは、ネグリジェだけではない。
各種のランジェリーはもちろんの事、デザイン豊富なブランド物のスーツ類も収まっている。
妻は資産家だった。
会社に出て働かなくとも食べていけた。
この別荘でひっそりと暮らしていく分には、生活に困ることはない。
妻の衣装を着込んでの生活を想像した。
殺した妻に成り代わって生きるのも一興じゃないかと思う。
考えがまとまると行動は早かった。
どうせならと、悩殺的なスリーインワンにお揃いのショーツとストッキングを選んだ。
そして神妙な面持ちで、それらを身に付けはじめる。
姿見には次第に女になってゆく自分の姿が映し出されている。
タンスに溢れるほど持っているはずなのに、さらにランジェリーなどを買いあさる女の気持ちが理解できたような気がした。
ランジェリーの次は上着である。
悩殺下着に合うものといったら、きっちりとしたタイトスカートスーツに決まっている。
しかもブランド物の高級品である。
それは壁面収納のクローゼットの中に収められている。
開けてみるとあるわあるわ、よくぞこれだけ集めたかというほどズラリと並んでいた。
さすがに資産家なだけあった。
それらの中から一番高そうな……といっても自分ではブランドの価値など判らないが……一品を選んだ。
サイズが合うかな……と、一瞬心配になったが、元々細身のタイプの自分。
タイトスカートを下から履いて、ウエストのホックを止め、ファスナーを静かに上げてゆく。
サイズもぴったり、見事にタイトスカートは自分の身体に吸い付くように収まった。
「ちゃんと履けたな……」
ダブルブレザーを着込み、とどめのハイヒールを履いて、ここに新しい女性が生まれたのであった。
その日はその格好で一日を過ごした。
食事は缶ビールとおつまみである。
興奮覚めやらぬ感情に浸っていた。
やがて夜となり、ネグリジェを着込んで眠りにつく。
明日は何を着ようかと楽しみを膨らませて。
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